ガブリエーレの物語。 スタンドで新聞を買っている青年に「ガブリエーレ」と声をかけそうになる敦子。 ガブリエーレと思った青年の容姿が語られる。 ガブリエーレは、今は70歳近い老人のはず、目の前にいるのは、巻き毛の青年だ。
1991年の春、ローマのアルジェンティーナ広場のバス停留所でのことだった。
読者である私は、語られる青年の容姿と広場のバス停留所に思いを馳せる。 須賀さんの、導入部の筆力にはいつも感心する。
旅する気持ちで読むと、私は考える。 ローマのアルジェンティーナ広場に私は、立ち寄ったことがあるだろうかと・・
敦子が、ガブリエーレに最初に出会ったのは、ジュノワ。 日本からの長い船旅をおえて、イタリアに上陸した日だ。 二度目は、6年後、ダヴィデに会いに来たガブリエーレと3人でロンドンを旅する。 ロンドン塔、テムズ川遊覧、ハンプトン・コート、動物園。
敦子がミラノで暮らすようになると「書店」に女ともだちを連れてくるようになるガブリエーレ。
ガブリエーレの恋が綴られる。 ドイツ人のインゲ、エンジニアの妻であるアンナ、そのアンナの両親の家に招待される敦子、両親が日本びいきで、敦子に会いたがったのだった。
書店の仲間であるカミッロに誘われてガブリエーレと敦子は、山の村へ出かける。 そこは、スイス国境に近いイタリアの村。 明日は、それぞれの家に帰るという晩に、ガブリエーレは生い立ちを語る。
未婚の母のこと、貧しかったこと。 村では疎外されていたこと。 その生活の中で、秋には栗を拾い、食事の足しにしたこと。 お母さんが、栗を使って、カスタニッチャという甘みのあるパンをつくってくれたと語る。
終わりに、ガブリエーレに誘われてジュノワに行った時のことが綴られる。 アルプスの麓、都会から地中海沿岸へ出るための列車、ミラノ・ジュノワ線の風景が綴られる。 ジュノワにつくと、ミーナというあたらしい女ともだちと一緒に敦子を迎える。 そのミーナが、敦子の小学校の友人に似ている。 敦子もミーナに好感をもつ。 ミーナが借りたフィアット500で、チンクエ・テッレへ出かける。
チンクエ・テッレは、五つの陸地で、昔は船でしか行き来のできなかった断崖の村。 今は、その傾斜地にワインをつくっている村で世界遺産に登録されている。
ガブリエーレにふさわしい女ともだちができたとかもしれないと思った敦子の気持ちが綴られる。
敦子が出会ったイタリアの人々の物語。 今回は、ガブリエーレの恋とともに、イタリアの美しい村や風景を綴った物語。
旅する気持ちで読む須賀敦子、今回、私の心に残ったキーワード ◆私は美術館に行くと必ず「受胎告知」を鑑賞する。 ガブリエルがマリアにキリストを妊娠したことを告げる場面を絵画にしたもの。ガブリエルとガブリエーレは同じでいいのかな。 ◆ローマのアルジェンティーナ広場のバス停 ◆ロンドンの描写で出てきた地名 ◆カミッロのふるさと、スイス国境近くの村 ◆チンクエ・テッレ
何よりも、ガブリエーレの生い立ちを語る場面、ちょっと不釣り合いで辛そうなお付きあいに見えた女ともだちのこと、そして、どこか敦子の友人を思わせる画家のミーナに出会えたことを喜んだと思える敦子の姿を思い浮かべた。
ガブリエーレの物語は、他の章でも綴られたかしら・・と自信のない私です。
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